旬を聞く NPO法入への寄付に税額控除制の導入を
旬刊 速報税理 (日本税理士会連合会監修) 2005年2月1日発刊、1ページ (Interview欄より)
旬刊 速報税理 (日本税理士会連合会監修) 2001年5月11日、30ページ NPO税制の今後を考える 国税庁長官から認定されたNPO法人への寄附につき寄附金控除等の適用を認める優遇税制において、 (文責:編集部) 1 認可取得の経緯 認定NPO法人の認可取得の経緯について教えてください。 松枝理事長 認定NPO法人の申請の前に、まず平成11年の4月19日にNPO法に基づく法人格を取得しました。このNPO法は平成10年の12月に施行されたのですが、翌年4月19日に私どもの団体を含め一三団体に初めて法人格が付与されたのです。つまりNPO法人の第一期生というわけです。実は、この時から近い将来税制上の優遇措置が講じられることを予想していました。 NPO法人は、二一世紀の地域社会、ひいては日本を支える大切なインフラになるとの声は政界をはじめ方々から聞かれていましたし、私自身も諸外国のボランティア活動等の状況を見るとNPO法人こそが時代の主流になることを予感していました。大蔵省(当時)や国税庁もこのNPO法人を後押しするべく、税制上の手当てをすることは決して想像しがたいことではなかったのです。 ●ポイントは会計面の整備 ですから、法人格を取得した時から即、近い将来の優遇税制を見据え、対策を講じていきました。特に優遇税制を受けるには必ずや必須の要件となるであろう会計面については、青色申告法人並みに整備していきました。もちろん専門家のお力も借りながらです。とはいえ、確固とした経理体制にまで仕上げるには正直大変でした。コンピュータによる会計処理をしてもこんなに大変なのですから、これがコンピュータのない時代だったらと思うとゾッとしますね。 ご承知のとおり税制における認定NPO法人制度は昨年の10月から施行されましたが、「待ってました」とばかりに即、申請しました。 一般にいわれているとおり、確かに認定要件は細かくかつ厳しかったです。 この要件をスンナリ満たすためにはどうすれば良いのか、いわば近道を模索したりもしましたが、そんな都合のいい方法はありませんでした。真に公益性が備わっていないと、必ずどこかの要件にひっかかるように精密に法令化されているのです。 正直なところ、こうした緻密さにはある意味、本当に感心しましたね。 ●"査察"?入る また、申請後、国税局の職員が当協会に"査察"にきました。もちろん本当の査察ではないですよ。私が勝手にこう呼ばせてもらっているのですが、それほど国税局による調査は厳しいのです。証拠書類の照合はもちろんのこと、支部にも調査が入りましたし、当協会が開催するテニス大会も実際に見にきたりと、経理だけでなく実態面の調査も受けました。 当方としてはもちろん誠意をもって対応するだけですが、この調査の緻密さにも感心しましたね。やはり鋭いですよ。 ただ、こうした調査を受けていて感じたのは、行為としては証拠書類等を通じた事実確認ではあるものの、その奥で人間を見ているなとも思いましたね。調査官の長年の感で、嘘をついているのかいないのか、直感的にわかるのでしょうね。 こうした"査察"をクリアして晴れて認定NPO法人においても第一号の認定を受けることができたのです。 2 認定を受けて今 今年1月から認定NPO法人となり、早や五か月弱が過ぎようとしていますが、現在の状況をお聞かせください。 松枝理事長 認定NPO法人になったからといって今のところはまだこれといった変化はないのが実状です。特に寄附金が多くなったということもありませんし、これまでどおり、障害者テニスやラケットのリサイクル等を通じてテニスの普及とその指導方法の向上に着々と日々精進しているだけです。 ただ、回りのこちらを見る目は変わった気がします。特増(特定公益増進法人)と同格になったわけですから、それもそのはずです。もちろん嬉しいことは嬉しいのですが、国税庁長官の認定を受けただけで回りの見る目が変わってしまうというのは、あまり本筋ではないような気もしないでもありません。こうした風潮が官僚主導の権力主義を助長させているようにも思えるのです。このような点から見てもNPO税制はまだまだ過渡期にあるといわざるを得ません。
3 NPO法人税制の今後 そういう意味では今後どのような税制を構築していくべきなのでしょうか。 松枝理事長 現行の認定NPO法人の税制については、認定要件の厳しさが指摘されていますが、それを緩和するというような対症療法では限界があると思います。 もっと新しい発想が必要なのではないでしょうか。それにはどうしたら公益を目的とするNPO法人に国民のみなさんが寄附をしょうというインセンティブを与えられるかをまず考える必要があるでしょう。 現行制度は、所得控除制ですから、寄附をした額の税率分しか基本的には救済されないことになります。つまりそれ以外は身銭を切ったことになるわけです。これではサラリーマンなど一般の納税者はなかなかインセンティブが高まらないでしょう。 ●所得控除から税額控除制へ それよりも、はるかに実効性のある方法を以前から実は私は考えていました。それは、NPO法人等へ寄附した金額については自分の納付税額から控除することを認めるという方法です。つまり税額控除制度のうまみをNPO法人等への寄附の優遇税制にも応用しようというわけです。 今、歳出のあり方、つまり税金の使途が国民的な議論となっていますが、この制度を採用すれば、税金の使途を納税者自身で決めることができるわけですから、歳出云々の議論も不要といえましょう。 こんなにシンプルで合理的な税制が他にあるでしょうか。 もちろん寄附を受ける側も生半可なことはできません。評価するのは納税者一人ひとりなわけですから、曲がったことをすればたちまちソッポを向かれてしまうでしょう。こうした自浄作用があるのもこの制度の利点であるわけです。 現在の公益法人は各省庁の利益になることしかやらないという意味で"省益法人"などと呼ばれることがありますが、私もそのとおりだと思います。このような弊害が起こるのは、国民の税金を集めるのも分けるのも、すべて国が行っているからです。この過程で必要悪の権力や利益誘導が生まれるのです。予算分配権を握る財務省しかり、族議員しかりです。 こうした政治不信を国民に抱かせないためにも、またタックスペイヤーとして納税意識を高めるためにもNPO法人等への寄附の税額控除制度は最適といえるわけです。 とある会合で国税庁の幹部にこの話をしたら「そのとおりだ」と賛成してくれましたよ。「実行に移す」とまでは言ってくれませんでしたがね(笑)。 もちろん一度にこうした税制を導入する必要はないのです。納付税額が100万円だとしたら一、二万円でもいいから、税額控除の対象となる寄附金として認めたらいいのです。まずは制度を導入することが先決です。わずか1、2%でも効果はテキメンでしょう。必ずや、納税者一人ひとりがどのNPO法人等に寄附するかを十分に見定め、応援したいところ、伸びていってほしい法人に納得して寄附するようになるはずです。 国民から支持されるNPO法人等がどんどん伸びていき、その成長とともに大きな公益を国民に還元する。こんな理想的な社会の実現も決して夢ではないのです。 松枝 禮 氏 昨年、二月まで大手製薬会社の研究員として第一線で薬品の研究開発に尽力し、そのオリジナリティーは業界、学界で絶大な一評価を受けた。 その持前のオリジナリティーを、学生時代からの趣味であったテニスにも注入。22年前の1980年に米国ブロテニス協会公認ライセンスの日本第一号取得者になるとともに、松岡修造選手などトッププレイヤーを続々と輩出する桜田倶楽部の創設に尽力した。その後も日本テニス指導者の草分け的存在として数々の要職を歴任。子供や障害者へのテニスの普及・指導にボランティアで取り組んできた。日本で初めての「車いすテニス」の実現もその一つ。自ら理事長を務める日本テニスウエルネス協会のNPO法人認可、税制上の認定はともに第一号。何事も先陣を切って道なき道を切り開いていく。
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