「国税庁が認定する認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)制度をスポーツの現場にどう生かすか? スポーツ現場での実践報告」(日本スポーツ産業学会第12回大会(2003年7月26日)で発表)

松枝 禮* 野田誠孫* 三浦知義*

 

How to Use The Advantage of The Government Certified NPO Organization
Status in Sports Field? Actual Activity Report
Rei MATSUEDA*, Shigehiko NODA*, and Tomoyoshi MIURA*
Abstract
The Government Certified NPO (Nonprofit Organization) system was set up on Oct.1, 2001 to support activities of NPO organizations. The Japan Tennis Wellness Association actually applied to this new system and got the certified NPO status as the first case from National Tax Agency Japan. Through application, raising funds, and actual activities, the advantages of this status in sports field were studied.
Key words: Government Certified NPO Organization, National Tax Agency, Tennis,
Sports

1.緒言
1998年に制定施行された特定非営利活動促進法により市民活動の団体が財団
法人や社団法人の形をとらなくても公益法人を設立することが可能になり、スポーツ関係への発展が期待された1)。しかし、経済的な基盤の弱いNPO法人にとっては、その活動に賛同する会社や個人からの献金や寄付を集めることが出来るか否かがカギであり、それを支援する目的で、税制の優遇が適用される認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)制度が2001年10月1日に施行された。これは、国税庁が審査して合格したNPO法人には、認定NPO法人の資格を与えて税制上の優遇を行うというものである。
*認定NPO法人日本テニスウエルネス協会
〒156-0043 東京都世田谷区松原5−23−2
*Government Certified NPO Organization, Japan Tennis Wellness Association,
5-23-2 Matsubara, Setagaya-ku, Tokyo, 156-0043 Japan
新しい公益法人であるNPO法人制度が日本に根づくためには、ボランティア活動
をする一般市民が誰でもNPO法人を設立でき、さらに認定NPO法人の資格を得れば、その活動が税制上でも一段と優遇されることが重要と考えられる。今回、筆者らは、1998年に立ち上げた日本テニスウエルネス協会について、実際に国税庁に申請して認定NPO法人の資格を取得することを試みた。そして、認定NPO法人の第1号としてこの新しい制度をどのように活かすことができるかを念頭に、募金、共同事業、税金、日頃の活動等の場面での取り組みについて検討した。その実践体験を通じて得た成果と問題点について報告する。

2.研究方法と結果
2.1 認定NPO法人の申請
認定NPO法人制度の発足に対応して国税庁より「認定NPO法人制度の手引」2)が発行された。これを近くの国税の税務署より入手し、その手順に従って必要書類を作成して2001年10月1日の施行に合わせて本部住所の管轄税務署である北沢税務署に提出した。基本的にはNPO法人の認証申請と2年分の事業報告の資料を基に作成すれば大部分の資料は作成できたが、役員報酬や従業員の給与規定、助成金、海外送金の他に、収入、支出、寄付金等の会計上の明細な資料の作成が必要であった。特に会計上の明細は、複式簿記で青色申告に準ずるものが必要であるため苦労したが、公認会計士のアドバイスと会計ソフトの利用で解決した。認定申請の資料に基づいて審査が行われるわけであるが、その認定資格を得るためにはいくつかの要件を満たす必要があった。その主な要件を表1に示す。
認証を受けた所轄庁から優良な団体であることの証明書や先に述べた青色申告に準じた会計処理の他に、活動や寄付や活動の便益を受ける側が広範囲であること、そして事業の主要な部分がボランティア活動であること、また、総収入の1/3以上が寄付金であることが求められる。寄付金で大口の寄付を受ける場合には注意が必要である。というのは寄付金の全額を認定要件の寄付金として算入できないからである。総寄付金の2%の額しか寄付金としては算入できない規則になっており、例えば大口の100万円の寄付を受けても寄付金総額が300万円である場合は2%に当る6万円しか算入できないことになる。
2.2 審査の実際とその結果
  日本テニスウエルネス協会の場合は、東京国税局により実際の審査が行われた。書類上での追加資料の提出だけでなく、本部と支部で国税局員による帳簿のチェックが実際に行われた。審査される方も審査する方も前例のない初めてのことなので戸惑いと緊張があったことは否定できないが、非常に慎重に審査が行われたとの印象であった。特に驚いたのは予告もなく、車いすテニス大会の視察があったことである。帳簿だけでなく実際のボランティア活動を目で見て判断するという姿勢には好感が持てた。
  審査の結果、平成13年(2001年)12月6日に認定され、12月11日の官報で告示されて認定NPO法人の第1号となることができた。その後も認定NPO法人の数は余り増えず、施行から1年9ヶ月経た2003年6月末時点でも14団体に過ぎない。NPO法人の数が11,474であることを考えると、その割合は0.1%である。このように極めて少ない認定NPO法人であるが、認定を受けるとどのような点が有利になるのであろうか?認定を受けた場合に受けることのできる税制上の特例措置(優遇)の主な点を以下に示す。
1)個人が認定定NPO法人に寄付した場合に、確定申告で寄付金から1万円を引
いた額が所得から控除できる。
2)企業が認定定NPO法人に寄付した場合に、損金として算入できる額が一般寄
付金(資本金と売り上げで決まる額)と同額だけ増額できる。
3) 相続財産を寄付した場合は、相続財産が非課税になる。
この優遇は、日本オリンピック委員会や日本赤十字社等に代表される特定公益増進法人と同等と言うことができる。しかし、現実にその数が少なかったことから認定条件の緩和が2003年5月1日から実施されることになった。活動範囲の広域性は廃止されて特定の地域だけでの活動でもよくなり、寄付金の割合が1/3から1/5に緩和され、大口の寄付の寄附金算入額が寄附金の総額の2%から5%に引き上げられた。また、寄附金として認められる年間最少額が3000円から1000円に引き下げられ、収益事業の収益の20%を寄付にすることができるいわゆるみなし寄附金制度が導入されることになった。
2.3 認定NPO法人資格をふまえた試行と結果
  日本テニスウエルネス協会の活動は、車いすや障害者のテニス、子供のテニス、一般愛好家のテニス、ボランティア活動の発展に向けての活動に大別できる。最近の活動例を表2に示すが、4のラケットのリサイクル運動は中学にテニス部を作ることを目標に長期的な視野で取り組んでいるものであるが予想以上の反響と成果が得られ始めている。認定NPO法人の資格を取得後、行政との共同事業のモデルをつくるべく世田谷区に提案したのが5である。学校の土曜日の休日化に対する受け皿としてのテニス教室について、こちらが指導のノウハウと人材を提供し、区がコートか資金を提供することによる共同事業である。助役レベルで数ヶ月かけて検討してもらったが、世田谷スポーツ振興財団といういわゆる官益法人がスポーツの全て取り仕切る仕組みになっているため実現には至らなかった。日本経団連の社会貢献を旨とする1%クラブへのアプローチをした7では、認定NPO法人の利点を生かした寄付のお願いを試みた。認定NPO法人ということで寄付の対象団体としての認定はもらえたが、実際の寄付を受けるには至らなかった。経済状況が悪く既存の寄付も取り止めている現状では新規のものは考えられないという横並びの結果であった。日本経団連の日本のトップ企業においても一般寄付金の枠一杯を使って社会貢献をしている会社はほとんどなく、認定NPO法人への寄付でその同額だけ損金算入を増やすことができる利点は実際には効果がないことが明らかになった。最近首都圏や都市部では民間のテニスクラブが消滅して会員がプレーする場所を失うといういわゆるテニス難民の問題が頻発している。これは相続に際して、不動産としての時価は下がる一方で評価額はあまり変わらないために相続税を物納することが多く起ってクラブが閉鎖されてしまうためである。テニスをプレーする場所がなくなることはテニスにとって大きな危機と言わざるをえない。特に次世代のテニスにとっては重大問題である。テニスを主な業務にする認定NPO法人である日本テニスウエルネス協会に寄付してもらえば解決できると考えて取り組んでいるのが9である。国税だけでなく地方税にも関連し、前例がない新しいことなので大きな労力を要するが前向きに取り組んでいる。

3.考察
3.1 認定NPO法人に関わる税制
  認定NPO法人であっても法人である以上は国税と地方税の対象になることは避けられない。都道府県民税や市町村民税が減免になるか否かについても前例がないため、多くの労力を要したが、現在では減免扱いが普通になってきた。一方、国税の法人税に関しては、収益事業を行う団体は対象となる。税法上の収益事業とは、物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、通信業、運送業、倉庫業、請負業、印刷業、出版業、写真業、席貸業、旅館業、料理店業その他の飲食店業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、鉱業、土石採取業、浴場業、理容業、美容業、興行業、遊技所業、遊覧所業、医療保健業、一定の技芸教授業等、駐車場業、信用保証業、無体財産権の提供等を行う事業の33業種に限られている。 古い規定であり、幸か不幸かスポーツに関わるものは含まれていないのが実情である。
3.2 行政とは共同か協働か
  世田谷テニス教室の例のように、行政との共同事業には官益法人の厚い壁がある。情報公開が成されているNPO法人に比して、同じ公益法人であっても官益法人の情報公開はなされていない。NPO法人は市民の自由な発想で自由な活動を行うのが原点であり、必ずしも行政の方を向いているわけではない。接点があれば対等の立場で共同事業が行えるのが望ましい。一方、最近、行政側からNPO法人との協働の呼びかけが行われるようになって来た。NPO法人のネットワークつくりや補助金や交付金による行政の下請け事業を模索するものであろう。資金的に苦しいNPO法人にとって利点はあるが、補助金や交付金無しではやっていけない足腰の弱いNPO法人になってしまう危険性がある。これに頼るとミニ官益法人になってしまう危険性があることを指摘しておきたい。NPO法人制度の先進国を見ても、NPO法人制度が発展するためには行政に対して中立性と独立性を保つことが重要と考えられる。
3.3 公益法人制度と認定NPO法人
  民法34条に基づいて設立された非営利な団体が公益法人であり、財団法人と社団法人あわせて2万6千あるが、新しいNPO法人もこの範疇に入る。財団法人や社団法人とNPO法人の大きな違いは、財団法人や社団法人は役所の許可を必要とする点である。権限を持つ役所がお手盛りの公益法人をつくりがちで、公益の名目で行政の下請けをさせ、補助金を流し、天下りの役員を送る場合が多く、いわゆる官益法人といわれるゆえんとなっている。2000年のKSD(現あんしん財団)の汚職事件を契機に公益法人の改革が政治課題として検討されているが、未だ具体策は出ていない。始まったばかりのNPO法人にもその影響が及ぶのは必至で、学校法人、宗教法人、社会福祉法人をふくめた公益法人全体のあり方が問われることになろう。この場合、そもそも公益とは何か、だれが公益と判断するのかが重要と考えられる。貧しかった戦後は経済的な利益が政官財と国民の一致した公益であったが、経済的に発展を遂げた現在では心の豊かさが求められるようになって来た。心の豊かさは各人各様であるため行政がそれに対応することは難しい。柔軟に対応できるボランティア活動やNPO法人が生れて来たのも社会的な変化の要請であるということができる。認定NPO法人制度では国税庁が公益を判断している形であるが、認定NPO法人の誕生が少なかったためにその条件の緩和がなされたのが現在までの経緯である。認定NPO法人制度が実施されて2年にも満たない内での改正であるが、このような付け焼刃的な改正で問題は解決するであろうか?日本に新しい認定NPO法人制度を根づかせるためにはどのようなものにすべきかという哲学と目標像が必要と思われる。
3.4 社会貢献の文化
  日本テニスウエルネス協会が認定NPO法人として取り組んでいる活動の一つに表2の8の賞金の1部を社会に還元する文化の育成がある。賞金の1部を寄付して社会貢献するという欧米では当たり前の文化が日本には未だ定着していないからである。これは選手の発想の問題だけでなく税制の問題もあるので長期的に取り組む必要があると考えている。十数年前のことであるが、日本のトップの自動車会社の社会貢献額について、売り上げではその数分の1に過ぎないフォルクスワーゲン社より少ないのはなぜかと外国の友人から質問されたことがある。企業の社会貢献の額も最近増加しつつあることは間違いないが、2.3で述べたように、日本経団連の1%クラブのトップ企業も一般寄附金の枠さえ使い切っていないのが実情である。このような選手や企業の社会貢献の問題は文化の問題であるため一朝一夕での改善は難しいであろうが、日本のNPO活動を盛んにするためには重要なことと考えられる。

4.結論と寄付の税額控除の提言
  純粋の市民活動である手作りの日本テニスウエルネス協会でも認定NPO法人の資格をえることができることを実証することができた。役所の許可を必要としない公益法人が特定公益増進法人と同等の税制の優遇を受けることができる実例ができた意味は大きい。しかし、今回の認定条件の緩和により認定NPO法人の数の増加は期待できるものの、果たしてそれでこの新しい認定NPO法人制度が発展をとげることができるであろうか?実際に認定NPO法人の資格が得られても、実質的な寄付の増大がないとその意味は半減する。日本経団連1%クラブの加盟会社の例で述べたように、企業からの寄付が増加するとは考えにくい状況にある。では、どういう方向が考えられるであろうか?著者らは、認定NPO法人に納税をしている市民が寄付した場合には、確定申告でその同額が返還される寄付の税額控除にすべきだと考えている3)。この「認定NPO法人への寄付の税額控除」を提言する理由は、所得税を源泉徴収されているサラリーマンやOLから広く薄く寄付を受けることができることが期待され、寄付を依頼する方も依頼される方も税の返還金を明確にすることができるからである。そして、国民が税金の使途の一部を選択できるようになるというだけでなく、便益を受けない純粋の市民の寄付によって公益性を判断する新しい尺度ができると考えられる。この寄付の税額控除の提言の主な利点を表3に示す。税額控除の上限は設けてもよいので認定NPO法人への寄付についてぜひ実現してほしいと考えている。十分な情報公開がなされ、国民の支持が明白な真の公益法人が育てば、KSDやムネオハウスやスパウザ小田原のような税金の無駄使いにつながる官益法人の自然淘汰が進み、財政改革につながることが期待される。
1) 松枝禮、野田誠孫;特定非営利活動促進法(NPO法)とスポーツの可能性、スポーツ産業学研究、10、113−117(2000).
2) 国税庁;認定NPO法人制度の手引、国税庁、平成13年8月発行(2001).
3) 日本税理士会連合監修;NPO税制の今後を考える、認定NPO法人第1号日
本テニスウエルネス協会松枝禮理事長に聞く、ぎょうせい発行旬刊速報税理、
5月11日号、30−32(2002).(英文抄録の和訳)
2001年10月1日にNPO法人の活動を支援する認定NPO法人制度が始まった。日本テニスウエルネス協会は、認定NPO法人への申請を行い認定NPO法人の第1号として国税庁から認定された。この認定申請、募金、実際の実践活動を通じて、認定NPO法人としての利点について検討したので報告する。


表1認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)の主な認定要件
1.受入寄付金総額等 / 総収入等が1/3以上
2.活動の範囲や寄付が特定のものに限定されないこと(80%以上)
3.便益が特定のもの(50%以上)に限定されないこと
4.特定非営利活動の事業費が総事業費の80%以上で受入寄付金の70%以上
5.青色申告に準じた経理の処理
6.所轄庁からの証明書


表2認定NPO法人日本テニスウエルネス協会の活動例
1.車いすテニス 2.障害者のテニス
3.子供のテニス 4.ラケットのリサイクル運動
5.土曜休日化に対応する世田谷テニス教室
6.認定NPO法人への寄付の税額控除運動 
7.日本経団連1%クラブへの寄付の働きかけ  
8.賞金の一部を寄付する文化の育成
9.テニス難民の救済

表3「認定NPO法人への寄付の税額控除」提言の主な利点
1. 所得税を源泉徴収されているサラリーマンやOLから寄付を受けやすくな

2.納税者としての自覚が増し、税金の無駄使いへの監視が進む
3. 国民が税金の使途の1部を選択できる仕組みができる
4. 公益性を判断する尺度ができ、官益法人の自然淘汰が進む
5. 元は税金である行政からの補助金や交付金に代って国民から直接寄付を受けるので独立性と中立性を保つことができる


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